第七官界彷徨 尾崎翠を探して

浜野佐知監督作品

『第七官界彷徨 尾崎翠を探して』映画概要

 恋愛に成功するのは、植物の蘚(こけ)だけ。人間はみな、片恋か失恋ばかりしている…こんな奇妙な小説「第七官界彷徨」を書いた尾崎翠は、一時忘れられた幻の作家でした。時は、翠が生まれて一世紀以上経った2004年。彼女の作品と人生をコラージュした、この映画の完成とシンクロするように、新たな再評価が、静かに、深く、インターナショナルに進行中です。カラー作品、108分、35ミリ&16ミリ、モノラル録音。

監督=浜野佐知/脚本=山崎邦紀/
撮影=田中譲二/照明=上妻敏厚/音楽=吉岡しげ美
キャスト=白石加代子/吉行和子/柳愛里/
原田大二郎/白川和子/宮下順子/横山通代/石川真希

●北九州市の「ムーブ」で『尾崎翠を探して』上映●

 北九州市小倉の市立男女共同参画センター「ムーブ」で、7月19日(土)に『第七官界彷徨・尾崎翠を探して』の上映会が行われます。同センターで毎年開かれている「ムーブ・フェスタ」の一環で、主催は「北九州国際女性研究会 ミズ・ウィング」です。
 「ムーブ」といえば、今年の3月14日に、同じ浜野佐知監督の『百合祭』シネマ&トークを主催してくれたばかりですが、その時の熱気を受けて、市民グループの「ミズ・ウィング」が上映会を企画してくれました。
 昨年12月には同じ北九州市の黒崎東宝が『百合祭』を2週間上映し、このところ浜野監督作品と北九州市は親密な(?)関係にありますが、残念ながら黒崎東宝は5月いっぱいで閉館するそうです。大宣伝をする映画しか観ることのできない状況になりつつありますが、男女共同参画センターや市民グループによる上映会が、いよいよ貴重なものになってきました。
 なお、黒崎東宝は今後、映画を含めた新たな事業展開を目指して行くそうです。刮目して待ちましょう。


*『第七官界彷徨-尾崎翠を探して』ムーブ・フェスタ上映会

  日 時:7月19日(土) 午後1:30~
  場 所:北九州市立男女共同参画センター「ムーブ」
   北九州市小倉北区大手町11-4
   TEL:093-583-3939 FAX:093-583-5107
  主 催:北九州国際女性研究会 ミズ・ウィング
  問い合わせ先:米原 Tel:093-321-3257
       倉光 Tel & Fax:093-651-8269



●2003年の尾崎翠フォーラムは7月12日・13日●

-上映作品は『プラーグの大学生』と『チャップリンの消防夫』に変更-

 澤登翠さんの活動弁士で上映されるはずだった『黄金狂時代』が、著作権の問題から急きょ変更になりました。詳しくは「尾崎翠フォーラム」のHPをご覧下さい。国際的な著作権をめぐる解釈の違いから、鳥取のフォーラムだけでなく、チャップリンの主要長編作品の上映に大きな影響が出ています。しかし、代替の『プラーグの大学生』と『チャップリンの消防夫』というのも、実に興味深いプログラムです。尾崎翠の卓抜な映画エッセイ「映画漫想」の第一回目の冒頭に、まず出てくるのが『プラーグの大学生』でした。
「漫想とは、丁度幕の上の場景のように、浮かび、消え、移つてゆくそぞろな想ひのことで、だから雲とか、朝日のけむりとか、霧・影・泡・靄なんかには似ていても、一定の視点を持った、透明な批評などからは遠いものだと思ふ。つまり画面への科学者ならぬ漫想家といふ人種は、画面に向かつた時の心のはたらき方までも映画化されているのかも知れない。莫迦! 幕の上にちらちらする影の世界に、心臓まで呑まれてしまつたのだ。たいせつな意識の流れの形式までをちらちらする影からもらひ、(プラアグの大学生の!)もうひつ込みがつかないのだ。」
 翠が映画に対する自分のスタンスを規定するとき、真っ先に浮かんできたのが『プラーグの大学生』でした。お金ほしさに魂を悪魔に打った大学生のストーリーですが、翠の再評価に大きな役割を果たした花田清輝も、貧乏時代の自分をこの大学生になぞらえています。しかし、翠の場合は、こちら側の現実とスクリーンの中の現実、実生活における実体の世界と、映画における「影の世界」を比較対置し、後者の「儚ない世界」こそ確かなものだというパラドックスが宣言されています。「プラアグの大学生の影」から、翠が何を「もらった」のか、ほとんど観る機会のない映画だけに、今回ぜひ考えてみたいものです。
 また、『チャップリンの消防夫』には、次のようなエピソードがあります。フランソワ・トリュフォーが『華氏451』を撮影するとき、消防署のシーンである手法を思いついたのですが、50年も前にチャップリンがその手を使っていたことを知り、「感嘆と絶望」の思いを撮影日記に記しました。(山田宏一「Slow Train」より)。1916年の時点で、チャップリンは50年後にも通じる実験を、短編映画の中で行っていたのですね。(消防士が昇り降りする円柱のシーンだとか)
 急きょ変更された上映プログラムですが、これを奇貨として、また新たな興味が湧いてきました。(03.06.18 ヤマザキ)

 「そして、チャアリイ!(君のことを書いていると、いつも直接君に呼びかけたくなつてしまふ。病気なのだ)」と書きつけた尾崎翠。翠が熱烈なチャップリンの讃仰者であったことは言うまでもありませんが、もっとも愛してやまなかったのは、彼の笑いやペーソス、風刺精神などではなく、「杖と帽子への愛」、そして『黄金狂時代』の「ポテトの踊り」でした。翠さん(と、わたしも直接呼びかけてしまいます)、あなたは、なんて現代的な映画批評家だったのでしょう。
 今年の「尾崎翠フォーラム・in・鳥取」に参加できる人は、幸せです。翠が最高傑作としてあげたチャップリンの『黄金狂時代』と『サーカス』のうち、さらに軍配を上げた『黄金狂時代』を、活動弁士つきで観るという至福を体験できるのですから。なぜ『サーカス』が『黄金狂時代』に及ばなかったかというと、それが「ポテトの踊り」のシーンの存在でした。この映画を観て、再び尾崎翠の作品に帰るとき、わたしたちは翠の視線の先にあったものが何であったか、新鮮に感得できるのではないでしょうか。
 いよいよ、尾崎翠フォーラムも第3回を迎えて佳境に入ってきましたが、第一回に参加され、研究者グループのリーダー的存在だった狩野啓子さん(久留米大学教授)の「第七官界彷徨」論を聞けるのも楽しみです。また、奇しくも同じ「翠」というお名前で、ご自身も尾崎翠の大ファンだという活動弁士、澤登翠さんのお話しも聞き逃すわけにはいきません。
 フォーラムのスケジュールや、内容紹介、参加方法などは、HPに詳しく掲載されていますので、ぜひ下記のアドレスをクリックしてください。また、今年からフォーラムを継続していくために「賛助会員」を募集しています。年会費3,500円という安さで、特典付きですので、ふるってご参加ください。

『尾崎翠フォーラム』 http://osaki-midori-forum.com/index.php

<スケジュール>

●第1日/講演と映画
〔日 時〕7月12日(土)13:30~17:25
〔場 所〕鳥取県民文化会館(第1会議室)
〔参加費〕2,000円(当日2,500円)※大学生半額・高校生以下無料

◇オープニング
 13:30~13:50 開会・挨拶
 13:50~14:00 尾崎翠の作品朗読(本城美佐子)

◇第1部 講演
 14:00~15:15 「『第七官界彷徨』の世界」(狩野啓子)
   15:15~15:45 「尾崎翠が愛した映画」(澤登翠)

◇第2部 映画
 16:00~ 『プラーグの大学生』『チャップリンの消防夫』(活動弁士・澤登翠)
 
◇交流パーティ
   18:00~20:00 会場=グリーンハウス(県民文化会館敷地内)
 参加費=3,800円(男性)、3,200円(女性)

●第2日/尾崎翠文学散歩ツアー 翠の足跡を訪ねて
  〔日 時〕7月13日(日)9:00~14:00
〔場 所〕JR鳥取駅南~鳥取市・岩美町の翠ゆかりの地~JR鳥取駅前
〔参加費〕2,000円(昼食代含む)

 案内人で、鳥取の奇人の一人、西尾雄二さんは次のように抱負を語っています。
「今年で3回目となる尾崎翠文学ツアーですが、今回は翠の作品に影を落としている風景や道などをより詳しく訪ねてみたいと思います。作品世界の中の情景は、必ずしも現実のものと一致するとは限りませんが、翠が眺め、見つめ、歩いたであろう風景や小径を追体験することは、翠の作品世界をより深く理解する機縁となるかも知れません。また日頃何げなく見過ごしている鳥取や岩美の風景の中にも、私たちにそっと語りかけてくる「何か」を改めて発見することが出来るかも知れません。そんな旅になればと考えています」
(鳥取県立山陰海岸自然科学館館長、尾崎翠フォーラム実行委員)

<賛助会員募集>

一昨年、第1回フォーラムを開催して以来、多くの市民の皆様および全国各地の参加者より好評を博し、フォーラムのホームページや報告集を通して、尾崎翠への関心と評価がさらに高まりつつあります。
 フォーラムは今後も毎年継続していく方針で、来年のフォーラムには外国から尾崎翠研究者でもあるカナダ・モントリオール大学のリヴィア・モネ教授を招くことも内定しています。つきましては、このフォーラムをより息長く継続していくために、つぎの要領で賛助会員を募ることとなりました。

◇賛助会員 年会費 3,500円
◇特典として
 1. フォーラムへのご招待(1名様)
 2. 報告集進呈(1冊)
 3. ツアーなどへのご参加(要実費)を優先的に受け付けます。

 賛助会費のお振込みをいただいた方には、折返し会員証とご招待券をお送りいたします。フォーラム報告集は年度内に出来次第送付いたします」

●主催=尾崎翠フォーラム実行委員会
●後援=鳥取県・鳥取市・岩美町


MIDORI  TOP

『第七官界彷徨 尾崎翠を探して』上映委員会
sense-7@f3.dion.ne.jp